初級文型の難所
初級文型の中には使い分けがとても難しいものがあります。その代表的なものをこの資料編で取り上げました。これらは機能別にグループとして理解するのが一番の早道です。特にこの資料編が取り上げた1~5の項目は学習者から一番多く質問が寄せられる項目であり、それだけ使い分けが難しいところです。その使い分けを表にしてありますから、参考にしてください。 なお本辞典は主として初級修了者を対象としていますが、中級文型に入る前に、この資料編に目を通されたらいかがでしょうか。中級文型は初級文型が土台となって組み立てられています。つまり、初級文型を木の幹とすれば、中級文型は幹から生まれた枝の関係にあります。日本語の文法の体系的な理解に避けて通れないのが、この資料編が取り上げた項目でしょう。また、「よく使われる口語文型」を資料として載せておきましたから、会話部や例文部を読みながら、「あれっ?」と思ったら、「よく使われる口語文型」を見てください。
1 自動詞と他動詞 2 ~ている/~てある/~ておく(アスペクト) 3 ~そうだ/~ようだ/~らしい(感覚推量) 4 感情表現と「~がる」 5 ~から/~ので/~て(原因・理由) 6 ~と/~ば/~たら/~なら(条件) 7 ~てあげる/~てもらう/~てくれる(受給)
「~ている」「~てある」「~ておく」の使い方を理解するには、日本語の自動詞と他動詞の理解が必要です。先ずそこから始めましょう。
他動詞文: (人)が (対象)を ~する
自動詞文: (人・物)が ~する
一つの現象は、動作している人に注目するか、動作の対象物に注目するかで、二通りの言い方ができるでしょう。対の自動詞と他動詞があるとき、動作している人に注目すれば他動詞を使い、動作の対象物に注目すれば自動詞を使うというのが大原則です。例えば、それを使い分けた例文は以下のようです。
危ない!上から瓶が落ちて(自V)きた。誰が瓶を落とした(他V)んだろう。 部屋が暗いので、わたしは電気をつけた(他V)。しかし、電気がつかなかった(自V)。 窓を閉めよう(他V)としたが、窓が閉まらなかった(自V)。
わかりやすく言えば、人を見てその動作を
言うときは他動詞を使い、物を見てその状態・
現象を言うときは自動詞を使います。
ただ、ここには文化の違いがあって、例ば魚を釣ったとき、日本人は「魚が釣れた」自動詞を使うのに、中国の人は「魚を釣ったと他動詞を使うと聞きました。また、日本人は「お茶が入りました。どうぞ」と言いますが中
国の人は、
「お茶を入れました(倒茶)。どうぞ」と言います。これは文化の違いであり、人意志や行為を重視する中国語に対して、日本人は他動詞を使うと人の意図・意志が表れ、手に好意を押しつける感じがするため、他動詞の使用を避けるわけです。中国の人が日本語の自動詞と他動詞の使い分けが難しいと感じる原因には、この文化の違いがあるようです。
「~ている」「~てある」「~ておく」の使い方を理解するために必要な分類は、他動詞、自詞繹オ(人が主語)、自動詞(物が主語)の三分類です。人が主語の動詞は意志がありますから、他動詞や自動詞(例:走る/歩く/泣く/寝る…)は、文末で「~たい・~つもりだ・~なければならない」や意向形(「~(よ)う」)が使えますが、物が主語の自動詞(例:降る/開く/落ちる/つく…)はそれができません。つまり、人の動作を表す他動詞と自動詞は意志のある継続動詞で、自動詞は物の状態を表す動詞で無意志動詞(多くは瞬間動詞)だということがわかります。なお、ほとんどの自動詞は物が主語の自動詞です。 ただ例外があって、人が主語になる他動詞でも「~を吐く・(下痢・咳)をする・~を感じる~を嘆く・~を嫌う」などの感情や生理を表す動詞は意志表現が使えませんが、意味から考えればわかるでしょう。
私は この時計を 買いたいです。 <他動詞> 買うつもりです。
私は 寝たいです。 <自動詞繹オ> 寝るつもりです。
雨が 降りたいです。(?) <自動詞繹シ> 降るるつもりです。(?)
会話でよく使う対の他動詞・自動詞
「~ている」は他動詞と人が主語の自動詞に付くときは、眼前で進行中の動作(動作の「~ている」) か、今も継続している習慣を表し、物が主語の自動詞に付くときは眼前に存在する状態(状態の「~ている」)を表します。いずれにせよ、この「~ている」形こそ、日本語の動詞の現在形なのです。一般動詞の原形は未来を表しますから、注意してください。会話のときはときは「今~しています」(現在形)、「これから・明日~します」(未来形)と使い分ければいいでしょう。
★ 動作の「~ている」
書く<未来>→書いている<現在>→書いた<完了・過去>
1)「今、何をしていますか」「宿題をしています。」 (現在進行中の動作) 2)「今、何をしていますか」「日本語教師をしています。」 (現在の状況)
★ 状態の「~ている」
死んだ<完了>→死んでいる<現在>→死ぬ<未来>
「死ぬ」は人が主語の自動詞ですが、瞬間動詞で動作ではありませんから例外です。自動詞のほとんどは物が主語の自動詞です。
1)「橋が壊れていますね」「ええ、この前の台風で壊れたんです」 2)「鍵がかかっていますよ」「どこか出かけたのかもしれませんね。」
「~ている」との関係から「~てある」と「~ておく」を見ると、わかりやすいでしょう。「~てある・~ておく」は、以下のように自動詞繹シにはつきません。基本的には「他動詞+てある・ておく」と覚えておけばいいでしょう。
動詞の種類と使い分け
★ 人為状態の「(物)が~てあります」
眼前の状態をどう見るかが問題です。自然状態は「自動詞+ている」でいいのですが、人が意図的に何かをして、その結果が状態として残っている場合があります。その場合、「ノートに名前が書いてある」のように「他動詞+~てある」を使います。では、下のドアが開いた状態の絵はどう言えばいいでしょうか。 単純化していえば、「自動詞+ている」は自然・物理状態、「他動詞+てある」は人為状態を表すと言うことができます。例えば、ドアが開いた状態を見て、「ドアが開いています」と言うか、「ドアが開けてあります」と言うかが問題になりますが、単なる状態や意図が不明の時は「ドアが開いています」のように「自動詞+ ている」を使えばいいでしょう。よく使われるのは「置く・貼る・書く・載せる・掛ける・並べる」のような行為の結果が目で見える他動詞です。 この場合、状態表現なので、「( 誰か) が窓を開けた→ 窓が開けてある」のように「を→ が」と変わります。
お皿が並べてありますね。お客が来るんですか。 黒板に絵が描いてありますね。誰が書いたんですか。 玄関に花が飾ってありました。
準備の「~ておく」と関連する表現で、
「~ておいた」結果の準備完了状態が「~てある」です。この場合、「私は~を~てある」と覚えるといいでしょう。よく使われるのは「教える・伝える・覚える・話す・頼む・読む」のような目ではとらえにくい動詞ですが、文脈によって「置く・貼る・書く」などの動詞もこの表現になります。
(ゴミの日ですから、外にゴミを出しました) → ゴミの日ですから、外にゴミを出しておきました。<準備完了を強調> → ゴミの日ですから、外にゴミを出してあります。<準備が完了した状態を強調>
(お客が来ますから、私はテーブルにお皿を並べました) → 私はテーブルにお皿を並べておきました。 → 私はテーブルにお皿を並べてあります。
「~ておく」は希に「寝る・走る」などの人が主語の自動詞につくこともありますが、基本的には他動詞につきます。意味は事前動作・準備を表すときと、状態保持・保存・放置を表す時に分かれますが、みなさんは「事前に~ ておきます」と「そのまま~ ておきます」の二つに分けて覚えればいいでしょう。
★ 事前に~ておきます<準備・事前行為>
今晩パーティーがありますから → (事前に)ビールを買っておきます。 → (事前に)部屋を掃除しておきます。
ドワを閉めましょうか。 → いいえ、そのままにしておいてください。 → 夫が帰ってきますから、(そのまま)開けておいてください。
通路に荷物を置いておいたら、人の邪魔になります。<放置の例>
繹ー 伝聞の「~そうだ」★ 接続の形
伝聞の「~そうだ」は常に現在形で用いられ、
「~そうだった」(過去形)や「~そうではなかった」(否定形)の形はありませんし、様態の「~そうだ」と違って「~そうな・~そうに」といった活用もありません。また、伝聞の「~そうだ」は終止形接続で、様態の「~そうだ」とは接続の仕方が全く違います。
他人の話や他から得た情報を相手に伝えるのが伝聞表現です。情報源は「~によると」、或いは「~では」で表します。当面は「~によると~そうだ」と覚えればいいでしょう。
天気予報によると、今日は雨が降るそうです。 友だちの話によると、あの店のラーメンはおいしいそうです。 噂では、李さんと良子さんは近く結婚するそうですよ。 政府の発表によると、消費税は値上げしないそうです。
繹ェ 様態の「~そうだ」
★ 接続の形
様態の「~そうだ」は名詞や「きれいな・赤い・かわいい」のような外観そのものを表す形容詞とは接続しません。否定形は少しやっかいですが、動詞の時は「~そうにない・~そうもない」、形容詞の時は「~なさそうだ・~そうではない」が使われます。
雨が降りそうだ → 雨が降りそうにない/雨が降りそうもない おいしそうだ → おいしくなさそうだ/おいしそうではない 元気そうだ → 元気ではなさそうだ/元気そうではない
様態の「~そうだ」は動詞・形容詞と結びついてナ形容詞を作ります。従って名詞を修飾するときは「~そうな+N」、動詞を修飾するときは「~そうに+V」の形になります。
このリンゴはおいしそうだ。 → おいしそうなリンゴですね。 → リンゴをおいしそうに食べている。
様態の「~そうだ」は主として視覚的印象(外見からの判断)を述べる助動詞ですが、「今にも~そうだ」の形で直前の状況も表します。なお、視覚でとらえられない動詞について漠然とした予想・予感の世界を表すようになります。それを表にすると以下のようになります。
<見える事態>視覚からの印象
あっ、危ない!枝が折れそうだ。 今にも雨が降り出しそうですねえ。 彼はうれしそうに笑っていた。 このリンゴはあまりおいしくなさそうです。
<見えない事態>予感・直感
まだ会議は始まりそうもないから、コーヒーでも飲んできましょう。 戦争はまだまだ続きそうですねえ。 ああ、寒い。風邪をひきそうだ。 この仕事は今日中に終わりそうです。
注意して欲しいのは、この「~そうだ」は常に現在か未来の事柄しか表せないことで、過去の事柄を述べるときは「~ようだ」か「~らしい」を使わなければなりません。
× 昨夜、雨が降りそうだ。 ○ 昨夜、雨が降ったらしい。 (外部情報から) ○ 昨夜、雨が降ったようだ。 (眼前の状況から)
なお、この「~ようだ<終止形>」はナ形容詞と同じように、「~ような+名詞<連体形>/~ように+動詞・形容詞<連用形>」と活用します。
お人形のようだ <終止形> お人形のような女の子 <連体形> お人形のように可愛い <連用形>
助動詞「~ようだ」は多くの用法をもっていますが、まず、五感や感触を判断材料に直感判断を述べる用法があります。「~だろう・~かもしれない」は知的な推量ですが、この「~ようだ」は必ず五感や感触でとらえられる状況が眼前にある感覚推量です。このようなときに使われる副詞が「どうも」ですが、みなさんは「どうも(五感や身体で感じて)~ようだ」と覚えるといいでしょう。 なお、下のような「~ようだ」の例文は「~だろう・~かもしれない」が使えません。
(触って)このお風呂、ぬるいようです。 (なめて)少し味が濃すぎるようです。 (臭って)これ、腐っているようですよ。 (足音を聞いて)誰か来たようですから、ちょっと見てきます。 (見て)鍵がかかっていますから、李さんはどこか出かけているようです。 (身内の感覚)少し寒気がします。風邪をひいたようです。
続いて比況・比喩の「~ようだ」があります。これはほとんど類似しているという意味を表すもので、「まるで~ようだ」と覚えるといいでしょう。
楽しくて楽しくて、まるで夢の世界にいるようです。 どうしたの?まるで氷のように冷たい手。 まだ十一月なのに、真冬のような寒さですね。 疲れていたんでしょうねえ。死んだように眠っています。
「~らしい」は外部情報に基づく推量で、聞いたことや見たことや伝聞情報を判断材料にして客観的に判断します。直接見たり聞いたりしたことは「~ようだ」を使っても表せますが、聴覚は「~らしい」の方がよく使われます。ただし、間接的な伝聞情報に基づく推量判断は「~らしい」しか使えません。その場合、多くは「~によると~らしい」の形で現れます。
道路が濡れているね。昨夜、雨が降ったらしい(⇔ようだ)。 先生の話によると、劉君は良子さんと結婚したらしい。 その話は、どうやら事実らしい。
伝聞の「~そうだ」と「~らしい」は深い関係があります。日本人がどう使い分けているかというと、一般には本人が直接聞いたことを他の人に伝えるときは伝聞の「~そうだ」を使い、間接的に又聞きした情報を伝えるときは「~らしい」を使っています。少しでも伝聞の内容に不確かさを感じたときは「~によると~らしい」を日本人は使うのです。
天気予報によると、今日は雨が降るそうだ(→降るらしい)。 手紙によると、鈴木さんは元気だそうだ(→元気らしい)。
日本語の感情形容詞(痛い・羨ましい・苦しい・うれしい・惜しい・悲しい・痒い・悔しい・なつかしい・恥ずかしい・・・)や希望表現の「~たい・~ほしい」などは一人称形容詞で、自分(「私」)の感情を述べるか、相手(「あなた」)の希望を尋ねる質問文の中でしか使えません。
あなたは カメラが 欲しいですか? → はい、私は カメラが 欲しいです。
あなたは 子どもの頃が 懐かしいですか? → はい、私は 子どもの頃が 懐かしいです。
ですから、次の文は誤文になります。この間違いは多く現れますから、注意しましょう。
× 田中さんはカメラが欲しいです。 × 彼は子供の頃が懐かしいです。
(例:うれしい→うれし‐がる/食べたい→食べた‐がる/嫌な→嫌‐がる)
日本語の感情形容詞や「~たい・~ほしい」は一人称形容詞ですから、原形のままでは第三者の感情を直接表すことはできません。そこで第三者の感情を表すには、外見からの判断を述べる
「~がる」「~がっている」や、様態の「~そうだ」などをつけなければならないのです。 第三者(特定・個人)の現在の感情を述べるときは「~がっている」を使いますが、「~がっている」はいい意味で使われることは少なく、目上の人に対して使うととても失礼になるので、その場合は様態の「~そうだ」を使った方がいいでしょう。なお「感情形容詞+がる・がっている」は他動詞に変わりますから、対象を表す助詞は「が→を」へと変わります。
「感情形容詞+がる」は不特定多数を表す「人々・若者・老人・男・・・」などにつき、その一般傾向や性向を表します。もし、特定個人を表す名詞と結びつくときは、現在の感情描写ではなく、本人の習性・性向を表すようになります。わかりにくければ「今~がっている」「いつも~がる」と覚えるといいでしょう。
女の子は(だれでも)お人形を欲しがります。<一般傾向> 子どもたち(だれでも)は甘い物を食べたがります。<一般傾向> この子はいつも勉強するのを嫌がります。<本人の習性・性向>
★ 過去文・引用句・従属句の中での使い方
過去文・引用句・従属句(連用修飾句・連体修飾句)の中では今まで述べたような制約はなくなります。この場合、感情は「(懐かし・うれし)い」、外から見た様子は「(懐かし・うれし)がる」と考えればいいでしょう。
劉さんは子どもの頃が懐かしかった。 <過去文> 劉さんは子どもの頃が懐かしいと言った。 <引用句> 劉さんは子どもの頃が懐かしくて、故郷の友達に手紙を書いた。<連用修飾句> 劉さんは子どもの頃の懐かしい思い出を小説に書いた。 <連体修飾句>
この中で一番よく使われるのが様態の「~そうだ」ですが、以下のような間接的な表現であればいいのです。
第三者も感情を表す表現
田中さんはとても うれしそうです。 <視覚推量> うれしがっています。 <外見からの判断>
このように、自分自身の感情は直接的に語れるが、第三者のことは様子からの判断や推量でしか語れないという日本人の自他区別意識が、言語からも伺われるわけです。こうした感覚は「内」と「外」という区別意識にも関係し、複雑な待遇表見や敬語表現を作り出しているように思われます。
1、 接続の形
2、 「~から」「~ので」「~て」の基本的な使い分け 一番簡単に説明すると、以下の図のようになります。「から/ので/て(で)」は異なる原因・理由の世界を分担していて、後件で何を表すかで違ってきます。「から」は意志・推量・未来を、「ので」は既定・過去の世界を、「~て/~で」は状態・感情の自然発生の世界を表すと言ってもいいでしょう。用法が重複するところがありますが、「使い分け略表」の◎を使うようにしておけば、問題が生じることはありません。
★ 「~から」と「~ので」の接続の違い
「ます・です形」とも普通形とも接続します。しかし、「ます・です形+ので」はとても丁重な会話で使われますから、通常は「普通形+ので」でいいです。注意するのは「~ので」は普通形接続の時、名詞・ナ形容詞は「~なので」になることです。なお繹ェの「~のに」も「~ので」と同じ接続なので一括して載せておきます。
★ 原因・理由を表す「~から」と「~ので」の違い
「~ので」が後件の文末で命令・禁止表現が使えないことを除けば、「~から」と用法上の大きな違いはありません。違いは叙述態度にあり、「~から」が主観的・恣意的に因果関係を取り上げるのに対し、「~のに」は客観的に理性的に因果=事実関係を述べます。ですから、報道文や学術文では「~から」はほとんど使われません。特に既に起こったか、既に起こっている既定事実を客観的に述べるときは「~ので」が一番ぴったりします。また、依頼や希望の表現に「~ので」を使うと、とても丁寧な響きがしますし、敬語といっしょに使われることが多くなります。
昨日は寒かったので、風邪をひきました。 明日試験なので、今勉強しています。 主人はすぐ戻って参りますので、こちらでお待ちいただけませんか。
しかし、この「~から」と{~ので」は大きな語感の差を生む場合があります。例えば下の会話例ように、謝るときの理由に「~から」を使うと「私は少しも悪くない。悪いのは事故のせいだ」というニュアンスが生まれ、誤解を招きます。人に謝るとき「~から」は禁句です。
今日は、どうして遅刻したんですか。 → 事故があったから、電車が遅れました。<悪いのは事故で、私に責任はない> → 事故があったので、電車が遅れました。<~理由で、~結果になった>
★ 理由の倒置・強調文「~のは~からです」
「事故があったので、電車が遅れました」は倒置・強調して「電車が遅れたのは、事故があったからです」と言うことができますが、この原因・理由の倒置強調文では「~(の)は~からです」が定型で、「~のは~のでです」の形はありません。
原因・理由の表現では対照的になるのが「~から」と「~て(で)」です。一番大きな違いは、「~て、~」の文では、後件で「~てください/~ なければなりません/~ たいです」や、「~で
しょう/~かもしれません」などの意志・推量表現が表せないことです。
あなたに会えて、うれしいです。
遅れて、すみません。
助けてくれて、ありがとう。
桜が咲いて、きれいですねえ。
パーティに行けなくて、残念です。
昨日は暑くて、寝られませんでした。
上例のように、人間の自然にわき上がる感情や、状態や現象の発生を描写するときに多く使われるのが「~て」(名詞の時は「で」)で、文末も無意志表現です。例えば上から四例は「~から」も「~ので」も使えません。ですから後件の文末は形容詞や「~られない(可能形の否定)」が一番多いでのすが、無意志性の動詞や意志性の動詞でも「た形」の場合は使うことができます。 分かりにくいときは、文末が動詞の原形(=未来形)や「~だろう/~つもりだ」などの意志・推量などの後続句がつくときは「~から」、文末が「た形」(=過去形)や可能形の時は「~ので」、文末が「ありがとう/すみません」や形容詞の時は「~て」を使うと考えて差し支えありません。
形容詞の不定形は「~なくて」の形になりますが、動詞の否定形には「ーないで」と「ーなく
て」の二つの形があります。理由を述べるときは「~なくて、~」の形になります。
ご飯を食べないで、学校に行った。(継起=それから)
ご飯を食べなくて、病気になった。(理由=それで)
「~が、~」や「~けれども、~」は対立関係があると思えば広く使えますが、
「~のに」は「~ので、当然そうなるはずだが、しかし~」という因果関係が背後にあります。ですから、話者の失望・残念・後悔・不可解・不満などのマイナスの感情が常に発生します。例えば「日本人だが、英語が上手だ」はいいのですが、「日本人なのに、英語が上手だ」は「日本人は誰でも英語が下手だ」という因果関係を前提にしていますから、とても失礼になるのです。
約束したから、来るでしょう。 ⇔ 約束したのに、来ません。
高い料理なので、おいしいです。 ⇔ 高い料理なのに、おいしくないです。
春ですが、まだ寒いです。 春なのに、まだ寒いです。
1、 接続の形
( 注:なお「~んだったら」という「~なら」とほとんど同じ用法の話し言葉です)
「~と・~たら」と「~ば・~なら」の一番の違いは、
「~ば・~なら」は後件の文末が完了形「た「~と・~たら」は仮定条件・既定条件のどちらも表せますが、
形」)にならないことです。つまり、「~ば・~なら」は仮定条件しか表せないと言うことです。この基本的な違いを最初に押さえておきましょう。
この新幹線は京都駅に ○ 着くと/着いたら 5分間停車する。 ○ 着けば/着くなら 5分間停車する。 (注:「~ば・~なら」は使えるが、「新幹線が京都に着くかどうか」不明な語感になる)
この新幹線は京都駅に ○ 着くと/着いたら 5分間停車した。 × 着けば/着くなら 5分間停車した。
3、 「~と」「~ば」「~たら」「~なら」の世界
条件の「~と」は習慣や必然的結果・確定事実を表します。「~と」は<いつもする>ことか、<必ずそうなる>ことを表すと覚えると言いでしょう。そのため、依頼「~てください」や義務「~なけれななりません」や勧告「~方ががいい」や希望「~たいです」や勧誘「~ませんか・~ましょうか」など、人間の意志や感情に関係する文末表現(助動詞)を使うことができません。
<習慣> 天気がいいと、 いつも井の頭公園を散歩します。 彼は家に帰ると、 パソコンに向かっています。 <必然の結果・確定事実> 春になると、暖かくなります。 右に曲がると、駅があります。
★ 人為的に成立する世界が「~たら」
「~たら」は「~と」のちょうど逆になる世界で、意志・希望のような人為的な世界を表します。ですから、文末で人間の意志や感情に関係する文末表現を使うときは「~たら」と覚えればいいでしょう。
「~ば(~なければ)」は仮定形と言われるように、人の想念・想像の世界を表します。「春になると、暖かくなる→ 春になれば、暖かくなる」のように習慣的に繰り返されることにも使えますが、「~と」の持つ確定事実の語感は消え、推量判断や願望が強く現れてきます。また「~ば」は前件が状態性の「ある・いる・できる・可能形」や形容詞の時は、
「~たら」と同様に後件で意志・依頼・義務や希望などが使えますが、動作性で意志性の動詞の時には使えないという制約があります。この場合「~ば」を使うと願望が強く現れます。
田中さんに会ったら(×会えば)、よろしくお伝えください。<動作動詞> 宝くじが当たったら(×当たれば)、世界旅行がしたいです。<動作動詞>
お金があれば(⇔あったら)、家を買いたいです。 <状態動詞・ある> できれば(⇔できたら)、わたしにお金を貸してください。 <状態動詞・可能形> 安ければ(⇔安かったら)、買うつもりです。 <形容詞>
「~なら・~ んだったら」は少し特殊な仮定表現を作ります。会話で一番よく使われるのは、相手が言ったことや、目撃したことなど、既知のことを条件にする用法で「~なら・~ んだったら」だけが持つ用法です。この表現は「~と・~ば・~たら」で表すことができません。
「ちょっと買い物に行ってきます」 「買い物に行くなら(=行くんだったら)、この手紙も出してきてください」
「今日はボーナスも出たし、なにかおいしいものが食べたいですねえ」 「それなら(=それだったら)、今日はどこかで外食しませんか」
更に要注意なのは「原形+ なら/ んだったら」は、後件で前件が成立する以前のことも、前件と同時に成立することができることです。下の例ですが、上の二例は「~と・~ ば・~ たら」で表すことができません。
ご飯を食べるとき、手を洗います。 <原形+とき=その前に> → ご飯を食べるなら、手を洗いなさい。(「~たら」は使えない) ご飯を食べるとき、箸を使います。 <原形+とき=その時に> → ご飯を食べるなら、箸を使いなさい。(「~たら」は使えない) ご飯を食べたとき、食器を片づけます。 <た形+とき=その後で> → ご飯を食べたなら、食器を片づけなさい。(「~たら」も使える)
ですから、同じような文でも「~なら」と「~たら」で意味が変わってきます。それが次の例です。
上海へ行くなら、船が一番安いですよ。(日本から上海まで) 上海へ行ったら、船が一番安いですよ。(上海に着いてから、中国国内で)
(1) 受給表現の基本図
「~てください」や「~ていただけませんか」などの依頼表現でもでてきたのですが、基本的には恩恵や利益の授受を表して、「私」を軸とした体系と考えていいでしょう。また日本語の受給表現は敬語と共通する待遇表現の一種で、上下関係や「内と外」によっても使い分けられています。図では、「私」( 私に属する人= 家族) から見て、目下・年下= 下、ほぼ同等も関係= 中、目上・年上= 上と表記してありますが、注意してほしいのは、日本語では身内= 家族には敬語は使わないことです。
<図の見方> 1) 図の「私」は「私の(父/兄/妹/・・・)」など、家族を含みます。 2) 矢印は行為や恩恵が「誰から誰へ」かという方向を表します。 3) A・Bは相手(「あなた」)または第三者を表します。 4) 質問文では「私→あなた」に変わります。
★ 「~は~に~を~てあげる」文
この文型では主語は「与え手」で、「に」格は受け手となります。
私は 息子に 英語を教えて やりました。 私は 友だちに 英語を教えて あげました。 私は 部長に 英語を教えて さしあげました。
★ 「~は~に(⇔から)~を~てもらう」文
この文型では主語は「受け手」で、「に/から」格は「与え手」となります。
私は 親に(⇔から) 辞書を送って もらいました。 私は 先生に(⇔から) 辞書を送って いただきました。
★ 「~は~に~を~てくれる」文
この文型では主語は「与え手」で、
「に」格は受け手となります。注意すべきは「に」格は常に「私」(私に属する人=家族)になることです。
父は 私に 日本語を 教えてくれました。 先生は 私に 日本語を 教えてくださいました。
(2) 「~てもらう」と「~てくれる」の違い
友達が 私に お金を 貸してくれた。 私は 友達に お金を 貸してもらった。
この二つの文は同じ事実関係を述べていますが、状況に違いがあります。「~てくれる」は相手が自発的にした行為で、「~てもらう」は相手に依頼し、その結果相手がした行為で、例えばその違いが下の例のように現れます。
「ねえ、ちょっと教えてくれない?」「うん、いいよ」 → 私は 友達に 教えてもらった。
「大変そうだね。教えてあげようか」「うん、お願い」 → 友達は 私に 教えてくれた。
(3) 「~てくれる/~てもらう」から派生するいろいろな依頼表現
助けて + くれ笙、/くれない?笙、笙。/もらえない?笙、笙。/くれないか笙、/もらえないか笙、 ください/くれませんか/もらえませんか/もらえないでしょうか くださいませんか/いただけませんか/いただけないでしょうか
この依頼表現では「もらう/ いただく」の可能形が使われることに注意してください。口語普通体のフレンドリー会話では「~てくれ」の列が多く使われますが、男性語笙、 と女性語笙。 の区別があります。「~てください」の列はあまり遠慮が要らない同等か目下の関係の人に対して使う表現で、目上に対して使ってはいけません。なお、目上の人や知らない人には「~てくださいませんか」の列が適切で、一番丁寧な表現になります。
(4) 被害や不利益の場合も使う「~てやる/~てもらう/~てくれる」 「~てやる/~てもらう/~てくれる」は、被害や不利益の授受の場合にも使われます。
あんな奴、殺してやる。 勝手に僕の部屋に入ってもらったら困るねえ。 困ったことをしてくれたね。